■ はじめに
競馬でおなじみの「単勝」「複勝」。
1着を当てる、あるいは3着以内を当てるという最もシンプルな車券で、初心者が最初に手を出しやすい人気の賭式です。
しかし、同じ公営競技である競輪には 単勝・複勝が存在しません。
初めて競輪を買う人の中には、
「なんで競輪は単勝や複勝を売ってないの?」
と疑問に思う方は多くいます。
実はこれには レース構造・公営競技の歴史・オッズの成り立ち・競走の性質 など、複数の要素が関係しています。
本記事では、競輪に単勝・複勝が無い理由を多角的に解説し、競馬との違いから競輪特有の魅力まで詳しく掘り下げていきます。
■ ① そもそも競輪に「単勝・複勝がない」のはなぜか?
結論から言うと、競輪に単勝・複勝が無いのは以下の理由が大きいとされています。
● レースが団体戦(ライン戦)で成り立っているため
● 「勝ちに行かない選手」が存在するため
● オッズが成立しにくいため
● 車券としての魅力・売上面の関係
● 歴史的に採用されなかった経緯がある
これらが複雑に絡み合い、「単勝・複勝は競輪に導入されていない」のです。
ここから一つずつ詳しく解説していきます。
■ ② 競輪は「個人戦」ではなく「チーム戦(ライン戦)」
競馬と競輪の最大の違いは、競輪は “個人戦のように見えて団体戦(ライン戦)である” という点です。
◎ ラインとは?
競輪では、
- 出身地(地区)
- 脚質(先行、追込)
- レース戦略
などに基づいて、選手同士が「ライン」を組みます。
例:
- 先頭を引く先行選手
- その後ろでチャンスを狙う追込選手
というセットでレースをします。
つまり
1着を取りに行く選手と、仲間のために2着・3着で役割を果たす選手がいる
という構造があるのです。
◎ この構造が単勝・複勝を成立しにくくする
競馬の単勝は「どの馬が1着になるか」を当てるものですが、
競輪では 必ずしも全員が1着を目指すわけではありません。
- 仲間を勝たせるためにわざと番手に入る
- ラインの牽引役として先行し、最終的には力尽きて着外になる
- 3着で役割達成の場合がある
このように、
全員が「勝ちに行く」わけではないスポーツに単勝・複勝は馴染まない のです。
■ ③ 「勝ちに行かない選手がいる」=単勝が成立しにくい
競馬では全ての馬が「勝つこと」を目標に走ります。
しかし競輪は違います。
たとえば、
- 番手選手(追い込み選手)はゴール前で抜くのが役割
- 先行選手は“風よけ”として仕事をし、最後は差されても役割を果たしている
- ラインのためにペースを作る仕事に徹する
このように、
最初から1着を狙わない選手も多いのが競輪の本質。
もし単勝・複勝があれば、
「勝ちに行かない役割の選手」に賭ける意味が大幅に薄れます。
さらに、ラインで協力しながら走るため
「誰が勝ちに行くか」は事前にある程度見えてしまう
という事情もあります。
→ 単勝オッズが歪みやすく、投票として成立しづらくなるのです。
■ ④ オッズの偏りが極端になりやすい
仮に競輪で単勝を発売するとします。
するとどうなるか?
● 圧倒的な人気が1点に集中する
ラインの構造上、
「勝ちに行く選手」「勝たせてもらえる選手」が存在し、
その選手に票が集中します。
結果として:
- 単勝1.1倍が頻発
- 他選手は全く売れない
- 単勝を買ってもリターンが非常に低い
こうなると、車券として魅力を失います。
競輪は他の公営競技に比べ「還元率75%」と高くありません。
その中で単勝のような低配当の車券を増やしても、売上メリットがありません。
■ ⑤ 複勝はさらに成立しにくい:ラインの「役割」問題
複勝は
「1〜3着に入れば当たり」
という初心者向けの賭式です。
しかし競輪では…
- ライン3番手は仕事柄“3着まで入らないことが多い”
- 先行選手は風よけをして着外になるのが一般的
- 番手が有利すぎる(ほぼ複勝2倍以下)
複勝を導入すると
番手選手だけが売れる、極端なオッズになる
という問題があります。
複勝の役割は
「初心者でも当てやすい券種」
ですが、競輪の構造ではそうなりません。
→ 初心者向けとして成立しない。
■ ⑥ 歴史的に採用されなかった背景
競輪は1948年に誕生しましたが、当初から投票券の中心は:
- 2連勝複式(現在の2車複)
- 2連勝単式(現在の2車単)
という「2車券」が中心でした。
競輪は「ライン戦」「職人の役割分担」を重視するスポーツとして普及したため、
個人の1着を当てる券種は必要性が低かった のです。
その後、
- 3連単
- 3連複
- ワイド(拡大3連複)
等が導入され、車券の幅は増えましたが、
競輪の競技構造が変わらない限り、単勝・複勝が導入される見込みはほぼありません。
■ ⑦「単勝・複勝が無い」=競輪の魅力にもつながっている
逆説的ですが、単勝・複勝がないことは競輪の魅力にもなっています。
● レース展開を読む面白さ
競輪はラインの駆け引き、位置取り、仕掛けなど、
戦術要素が非常に濃いスポーツ であり、
2車単・3連単のような券種が魅力を発揮します。
● オッズの妙味
ラインと選手心理を読むことで、
高配当が生まれるスポーツでもあります。
もし単勝・複勝だけの世界なら
「人気選手を買うだけ」で終わってしまい、
競輪の魅力が薄れてしまうとも言えます。
■ まとめ
競輪に単勝・複勝が存在しない理由は以下の通りです。
- 競輪はライン戦であり、全員が勝ちに行くわけではないから
- 役割を背負う選手が多いスポーツで単勝は成り立ちにくい
- 複勝は番手選手に票が集中し、券種として成立しにくい
- オッズの偏りが極端になるため魅力が薄い
- 歴史的に個人戦の単勝・複勝の文化が根付かなかった
競輪は「チーム戦と個人戦が混在する独特のスポーツ」であり、その構造こそが単勝・複勝を排していると言えるでしょう。



